【レビュー】厨二病の成れの果て「灰色のダイエットコカコーラ」:佐藤友哉
佐藤友哉は 2001 年にメフィスト賞受賞作「フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人」でデビュー。シスコン、サイコパス、超能力など目を引くワードをごった煮にしたような作品で、以降の作品も同じ系譜をたどっている。言葉を選ばずに言えば、(いい意味で)厨二っぽい作品が多い。
しかし、この「灰色のダイエットコカコーラ」だけは作者の著作の中で異彩を放っている。初めこそ典型的な厨二病の主人公が、様々な挫折を経て大きく心持ちを変えるのである。
主人公は街に”覇王”として君臨する祖父を持つ。暴力と恐怖で街を支配し、亡くなってからもなお人から恐れられる祖父、自分がその直系であるという事実は、主人公の「自分は人とは違う」という強烈な自意識を深く作っていた。祖父が凡人を指して言う「肉のカタマリ」。主人公の将来は覇王か、肉のカタマリか?
物語は中学生時代からはじまるが、この時点で、1 万人の厨二病症状の和集合を濃縮させたような凄まじい厨二病である。「主張と復讐」のために、厨二病仲間のミナミ君と稚拙な殺人の計画ノートを作ったり、火事を起こしたりと、笑えない騒ぎを繰り返す。「性と生と精の無効化」をやられたスギハラ先輩かわいそうすぎる。
その後、ミナミ君を失い 主人公は 19 才になるが、未だに何者にもなれていない。どころか、何のスキルも持たないフリーターである。理想と現実の悲しすぎるギャップと強烈な自意識を抱えながら、主人公はどのように世界と対峙するのかが見どころである。
話を読み進めると主人公の自意識があまりにも痛々しく、過去にこうした症状を抱えていた人ほど恥ずかしい過去を思い出してグサリと来るだろう。現実を直視しなければならない場面で主人公の思考が徐々に変わっていく描写が見事。一番最初と最後のページでここまで主人公の内面が変わる小説は非常に珍しいと思う。
作者はこの作品について、「人生の 5 分の 1(5 年)をこの作品に費やした」と語っているが、この歳月は作者が主人公と同様の心境の変化を受け入れるためにかかった時間なのではないかと思う。想像だが自分の作品について「この小説が読まれないのは世間のレベルが低いから」のような気持ちが片隅にあったのが、小説の売り上げ、レビューでの評価などを直視し続けて自意識と現実のギャップを素直に認めるというような経験が作者にもあったのではないだろうか。そうでなかったとしても、終始厨二病に徹している自分の過去の著作を突き放すような気配が感じれられ、作者の自伝を見ているような、単なるフィクションとは思えない凄みを感じる作品だった。