【レビュー】犬と猫の夫婦の物語「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」:万城目学
August 05, 2021
作者の万城目学は、西日本を舞台にしたファンタジー要素のある著作を多く出している。この小説はそれらとはテイストが異なり、児童文学のような雰囲気の、小学生の女の子を主人公にした小説である。
「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」というタイトルの「かのこちゃん」は小学一年生の女の子。一方の「マドレーヌ夫人」は猫。名前の通り夫人なのだが、なんと夫は犬である。
かのこちゃんの視点から描かれる日常が面白く、読んでいて飽きない。「おとなの雰囲気」を出すために語尾にござるを付けたり、茶色い柱で茶柱など、笑える場面も多い。
本書は若干のファンタジー要素を含んでおり、魔法的な要素が少し登場するが、過去の著作ほどではなく、あくまでエッセンス程度である。物語のスケールもありふれた日常の延長であり、何かが大きく動く物語ではない。
猫の視点からも物語が描写されるが、夫の玄三郎を思う気持ちや振る舞いの気高さに非常に好感を持てる。マドレーヌは飼い猫ではなく、かのこちゃんの家の飼い犬と結婚した野生の猫なので、外に出ている時間の方が長い。猫同士の談義のシーンなども面白い。
物語の最後で2つの別れ(3 つとも言える?)が描かれるが、切なく温かい別れの場面に心を揺さぶられる。マドレーヌ夫人の生き様もかっこいい。すごく綺麗な終わり方だが、実は作者の別の小説「パーマネント神喜劇」で数年後のかのこちゃんが少し出ているそうなので、こちらも読んでみたい。