【レビュー】羽毛のように軽い命と感動「魔女の子供はやってこない」:矢部嵩
「魔女の子供はやってこない」は、魔法少女を主人公にした連作短編ホラー小説。角川ホラー文庫から出ているがあまりホラーという感じはしない。6編からなるが、ほとんどが独立した短編としても読める。
この本、文章が非常に読みにくい。「漫画さあ、読んでいい」「やだ」
とか「あ、もしか忘れてる?てか何故敬語」「あの話がよく」
のような、実会話でのみ登場する様々な文脈があって初めて成立する破片のような会話文が多用される他、全体的に会話文だらけである。会話文での改行もなく独特なレイアウトになっており、ページを開いた時の印象が一般的な小説のそれとは異なる。
中身の方も、恐ろしく簡単に人が死ぬし、グロくて汚い。人物の名前や地名が超適当だったりする。え?と思うようなことが唐突に起こりまくり物語展開に脈絡がなさすぎる。
このような特徴だけ聞くと、厨二病の中学生が猟奇的な描写を思うまま詰め込んだような小説もどき、というようなイメージを思い浮かべてしまうかもしれない。しかしこの小説、一見稚拙に見える文体ながら、ハッとするような美しい描写や並のホラー小説では太刀打ちできないほど怖くて斬新な展開、分析し難い謎の感動が高密度に詰め込まれているのだ。おそらく意図的に一般的な小説の作法から外れた文体で書かれているのだろう。動画を編集しようとしたら全然カットできるところがなくて結局無編集で投稿してしまった、というのに近いと思っている。
小学生の夏子はある日「六〇六号室まで届けてください。お礼します。魔女」と書かれたへんてこなステッキを拾う。半信半疑で友達 5 人と部屋を訪ねるが、調子外れな魔女の暴走と勘違いで、あっさり 2 人が銃殺&毒殺されてしまい、夏子達はパニック状態に。反省したらしい魔女は、お詫びに「魔法で生き返してあげる」と提案するが―。
以上があらすじである。あらすじで書かれている下りが 1 話で、それ以降の話は主人公の夏子と魔女のぬりえの二人を主軸として物語が進む。2話以降は二人が街の困っている人を助けようとするところから話が始まり、毎週やっている1話完結のアニメを思わせる作りとなっている。
この中でも、4 話の「魔法少女粉と煙」と 5 話の「魔法少女帰れない家」が短編としてとてつもなく秀逸である。特に4話は恐ろしい完成度のホラーで、一番最後のページの3文字程度の短いセリフが滅茶苦茶怖い。(作者の twitterId も「@konakemuri」で、作者も代表作だと考えているのでは) 5 話も 4 話に劣らずブラックな結末で、いつまでも忘れられない衝撃がある作品である。魔法が存在する世界観だが、結局魔法などより人間が断然怖い。
そして最終話の 6 話では物語が劇的に動き、実は色々な所に伏線が張って会ったことが明らかになる。主人公が自分で選び取った、バッドエンドともハッピーエンドともいえる結末に、すごいものを読んでしまったなあと思わされてしまう。大傑作。